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在米日本人の教育を考える 〜日本の山村での日本語・日本文化体験学習プログラムの効果
米日教育交流協議会 代表 丹羽筆人
ものを大切にする心を芽生えさせる 最近の子供達は鉛筆や消しゴムなどの文房具を初め、ものを大切にしないように感じます。授業中に消しゴムを粉々に分解してしまう子、鉛筆を折ってしまう子などがいますが、この子達は何らかのストレスを感じているのかもしれません。しかし、私の勤める学校の忘れ物置き場には、いつまでたっても引き取り手のいない文房具がたまっています。新品の鉛筆が1ダース分ケースに入ったままというのもあります。失くしてもすぐに買ってもらえるのでしょうか?物質的に豊かな子供達の暮らしがそこに見えています。また、アメリカの学校の子供達は、よりものを大切にしない傾向が強いようです。そのせいか日本にいる時よりも、ものを粗末にするようになったという声も聞きます。 しかし、もともと日本人はこのようにものを大切にしなかったのでしょうか。そうではないことを、私はこの夏に実施した日本でのサマーキャンプにおいて実感しました。中でも2週間の滞在期間中に3泊した岐阜県西部の揖斐(いび) 郡揖斐川町旧坂内村にある築150年という伝統的なかやぶき屋根の古民家での生活体験は印象的なものでした。坂内は人口約600人でその大半が高齢者という典型的な過疎の地域です。住民の多くは田畑を耕し、昔ながらの自給自足に近い生活が営まれています。今は車で1時間も走れば買い物のできる町まで行くことができますが、それよりもり自分の田畑で育った作物や周囲の山や川で採れた旬のものを食べる方がおいしく健康的であり経済的です。 私達が滞在した古民家は、外観のみでなく内部の設備も現代のものとは違っています。台所は土間にあり、お風呂は昔の五右衛門風呂(注)を現代風に改修したもの、今には囲炉裏があります。もちろんガスや水道はありますが、かまどが昔のまま残されており、炊事や風呂焚きは薪を燃やして行い、囲炉裏で炭を焼いて暖を取っていたことが分かります。この地域の山はかつて薪や炭の材料となる広葉樹林が生い茂っており、薪用の木材の切り出しや炭焼きが重要な産業の一つだったようです。含めた燃料を周囲の山から得ていたことが分かります。そしてトイレはもちろん外。参加した子供達にとっては、昔話でしか見たことのないもので、特に夜は一人で行くことが怖かったようです。今では水洗式となっていますが、かつては汲み取り式であったため、臭いや衛生面、そして肥料として田畑に運ぶために外にあったほうが都合が良かったのです。野菜の切りくずや残飯も畑の肥料として使い、ものを決して無駄にしない日本人の生活習慣を十分感じることができました。 坂内では昔から和紙や藁製品、竹製品の生産も行われており、今もそれが受け継がれています。食料だけではなく、日用品も周囲の植物や田畑の作物を利用して自分の手で製作するのです。参加者達に藁草履作りを指導してくださった先生(地元に暮らすおばさん)が仰った一言「自分で作らなければ履く物がないからね。」が忘れられません。 生まれながらに物質的に豊かな時代に育った「現代っ子たち」には、このような暮らしは実感できないでしょう。しかし、山里の人々の暮らしを体験することによって、ものを大切にしようという心が芽生えるのではないでしょうか? (注)かまどに置かれた鉄の釜の中に木の桶をすえた風呂。桶の底は浮かせて蓋とし、入るときには踏み沈めて底とする。釜ゆでの刑に処せられたという石川五右衛門の名にちなんだ名称。
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〜Weekly Business News 2006年10月13日号掲載
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